問題文は最後まで読めた。日本語の意味も分かる。なのに、ペンが止まる。
「これ、資産が増えたんだっけ、収益が増えたんだっけ」
「借方に書くのはどっち側だったっけ」
読めているのに、書けない。テキストの用語は覚えたはずなのに、いざ問題文を目の前にすると、借方と貸方のどちらに書けばいいのか判断がつかなくなる。その一瞬の「判断で固まる」感覚に、心当たりがあるかもしれません。過去問を解いているときならまだいい。模試や本番で同じことが起きると、止まっている数秒がそのまま焦りに変わっていきます。
これは記憶力の問題でも、センスの問題でもありません。止まる原因は、たいてい同じところにあります。
「何の勘定科目か」から考えるから止まる
問題文を読んで、頭の中で最初に浮かぶのが「これは何の勘定科目だっけ」だとしたら、そこが止まる原因です。
勘定科目の名前を先に探しにいくと、似た名前の科目が何個も頭の中で点滅します。前払費用なのか前受収益なのか。未収入金なのか売掛金なのか。仮払金なのか立替金なのか。名前だけで覚えたものは、名前だけで迷います。しかも試験本番は時間との勝負なので、迷った時点でもう遅れが出ます。
手が止まったら、勘定科目を探すのはいったんやめてください。先に見るのは、この取引で実際に何が動いたか——お金なのか、商品なのか、権利や義務なのか。次に、それが自社にとって増えたのか減ったのかを確認します。ここではまだ科目名を考えません。増えたか減ったかの方向がはっきりして、はじめて、それが資産・負債・純資産・収益・費用のどのグループに当たるかを考えます。グループさえ決まれば、借方か貸方かは自動的に決まります。
先に科目名から入ると、似た科目のどれかに賭けることになり、当たり外れの世界になってしまいます。動いたものを先に見る。それだけで、選択肢が絞られていきます。
科目名が思い出せないと、何もできない気がします…
その「科目名から思い出そう」とする発想こそ、実は一番の落とし穴です。まずは何が動いたかだけを見てください。
借方・貸方は「暗記」ではなく「位置」で決まる
借方・貸方をいつも逆にしてしまう人は、勘定科目ひとつひとつに対して「これは借方、これは貸方」と個別に覚えようとしています。これでは科目が増えるたびに覚え直しが発生し、試験範囲が広がるほど、いつか必ずどこかで崩れます。
実際には、位置を決めるルールはたった一つです。資産・費用が増えたら借方(左)、負債・純資産・収益が増えたら貸方(右)。減った場合はその逆側に書くだけです。
これさえ頭に入れておけば、「未収入金は借方だったか貸方だったか」と科目ごとに思い出す必要がなくなります。未収入金は資産のグループだから、増えたなら借方。それだけです。逆に、買掛金のような負債が増えたなら貸方。グループさえ分かれば、位置は自動的に決まります。
科目ごとの丸暗記がいずれ崩れるのは、科目の数が増えるスピードに、記憶できる量が追いつかなくなるからです。試験範囲を一通り学び終えるころには、数十の科目名が頭の中に並びます。その一つひとつに「借方派」「貸方派」というラベルを貼って管理しようとすれば、どこかで必ず取り違えが起きます。位置をルールで決めれば、科目がいくつ増えても迷う場所は増えません。
このルールは、たまたま先生や参考書が決めた覚え方ではありません。決算書を見ると分かりますが、貸借対照表では資産が左側、負債・純資産が右側にまとまっています。損益計算書では費用が左側、収益が右側です。仕訳の借方・貸方は、この決算書上の位置とそのまま連動しているだけです。だから、丸暗記ではなく「決算書のどちら側に集計される科目か」で考えれば、初めて見る科目でも迷わなくなります。
実際にやってみる
「商品50,000円を掛けで売り上げた」という取引を考えてみます。
ここで動いたのは、商品を渡したことそのものではありません。渡した相手から、後で代金を受け取る権利が発生したこと、この権利のほうです。3級で使う三分法では、売った瞬間に商品そのものを仕訳の中で動かすことはしません。商品の原価を確定させる処理は、決算時にまとめて行うからです。だから、この時点で記録するのは「後でお金をもらえる権利」と「それによって発生した収益」の2つだけです。
その権利、つまり売掛金は資産です。収益は売上です。さきほどのルールに当てはめると、資産が増えたら借方、収益が増えたら貸方でした。
「商品を売った」という言葉に引っ張られて、商品そのものの減少を仕訳しようとしてしまう人がいます。でも三分法では、売った時点でそれをしません。ここを勘違いすると、貸借がまるごと狂います。
商品を売ったのに、商品の仕訳はしないんですか?
三分法ではそうです。売った瞬間に動くのは、売掛金と売上だけ。商品の原価は決算でまとめて処理します。
もう一つ、「消耗品10,000円を購入し、代金は翌月払いとした」という問題も見てみます。動いたのは、消耗品という費用の発生と、後で払う義務の発生です。費用(消耗品費)が増え、負債(未払金)も増えました。ルールに当てはめると、費用の増加は借方、負債の増加は貸方です。
科目が変わっても、見るところは同じです。何が動いたか、それは増えたのか減ったのか、どのグループに当たるか。この順番を外さなければ、科目名を先に覚えている人がやりがちな早合点は起きません。
似た科目のペアで、判断がぶれやすい場面
問題文を読んで固まりやすい場面には、共通した形があります。性質の似た科目が2つ並んでいて、どちらを使うか一瞬で判断できないケースです。
- 前払費用と前受収益、どちらの立場で見るか——前払費用・前受収益|「まだの分」を翌期へ送る
- 未収入金と未払金、お金をもらう側か払う側か——未収入金・未払金|売掛金・買掛金との違い
- 立替金と預り金、誰のお金を預かっているのか——立替金・預り金|「誰のお金か」で判断する
- 仮払金と仮受金、内容がまだ確定していないときの扱い——仮払金・仮受金|内容が未確定なときの一時的な科目
- 貸倒引当金、差額補充法の考え方——貸倒引当金|差額補充法を3段階で解く
こうした個別の判断基準は、それぞれ別の記事で具体的な見分け方をまとめています。今回の考え方で全体の流れをつかんだら、あとは迷いやすい科目のペアだけを個別に潰していくのが、遠回りに見えて実は一番早い方法です。
仕訳の考え方そのものをもう少し丁寧に整理したい場合は、「仕訳を『3段階』で考える」の記事も合わせて読んでみてください。
止まってもいい、そこからどう動くか
模試や本番で手が止まると、「時間が減っていく」という焦りだけが先に膨らみます。焦れば焦るほど、科目名は出てこなくなるものです。
問題を読んで一瞬固まるのは、勉強不足のサインではありません。むしろ、科目名の暗記だけに頼らず、内容をきちんと理解しようとしている証拠でもあります。止まった経験がある人ほど、次に同じ形の問題が出たときには迷わなくなっていきます。
止まってしまう自分は、向いていないのかもと思うことがあります。
止まるのは、理解しようとしている証拠です。同じ順番で考える練習を重ねれば、止まる時間は短くなっていきます。
大事なのは、固まった瞬間に自分に何を問いかけるかです。科目名を探すのではなく、何が動いたか、増えたか減ったか、どのグループに当たるか。この順番さえ頭に入れば、初めて見る問題文が相手でも、同じ手順で崩せるようになります。
次に問題を解いていて手が止まったら、科目名を思い出そうとする前に、まずこの順番を思い出してみてください。止まる時間そのものが、確実に短くなっていくはずです。焦って科目名を当てにいくより、遠回りに見えるこの順番のほうが、結局は速く答えにたどり着きます。


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